花咲く頃に会いましょう。

〜弐〜

どれくらいの時が経つのでしょう。

あの少年は姿を消しました。

人はいつか流れていくのでしょう。

あの、雲のように。

どこまでも。


戦争はいつの間にか終わっていました。

止めるくらいなら。

止めるくらいなら、始めなければいいのに。

誰かが言っていた。

人の命ほど、値引きのきくものはない・・・

本当にそう思う。

私は、冷酷になったのだろうか?


時は流れた。

時が経てば、全て元に戻るのだと思っていた。

完全に、とは言わないまでもかなりのところは。

けれど、現実は、そうでもないようだ。

私は、今もこの荒れた土地に一人。

あの人は、帰ってくるのだろうか?


紫色の空。

あの人の瞳の色と同じ・・・。

瞳の色が空の色に似ているのか。

空の色が瞳の色に似ているのか。

どちらが、最初だったのだろう。

急に、切なくなった。

足音が聞こえた気がした。


振り向いても、独り。


さらに時が過ぎた。

この辺りの土地も緑が茂っている。

私は何の手も加えてはいない。

けれど草木はその根をはり、生命は息吹く。

自分が、存在が薄くなるのを感じた。

命は巡る。

夫は?


空には月。

綺麗な満月。

久しぶりに歌った。

静かな唄。

風の音に流されるような細い声で。

今、私を想う。

私は、私を。

「・・月影に・・・重なるように・・・ただ・・・夢に・・・舞い・・・♪」


扉が叩かれる音を聞いた。

優しい、衝撃音。

トン、トン・・・トン・・・

光が零れている。

陰が満ちていく。

シン、シン・・・シン・・・

日の光を受けたとき広がるめいいっぱいの紅。

温かさを感じながら私は扉の方に立つ人影に、微笑みかける。

「お帰りなさい、あなた。」

「遅くなってしまったかい?」

本当は頷いて、一杯話したいこともあったけど。

もう、いいの。

全部、分かったから。

そう、全部。

私は思いっきり抱きしめて。

首に手をまわして。

頬に優しくキスをして。

唇に情熱的な口付けを。

とろけた瞳で覗き込む。

言葉はもう決まっているの。

帰ってくる言葉さえ。

そう。

きっと、そうだった。

「私、わかったの。
 ごめんなさい。でも、これからは・・・。」

言葉を言い切るより早く、彼に唇を塞がれる。

でも、悪い気はしない。

これでいいの。

「謝らなくても、いいよ。
 僕は、君の全てを許すよ。
 想いが、変わることはない。今までも、これからも。」

ぎゅっと、強く抱きしめて。

思い出したのは、あの少年の瞳。夫の、瞳。

吸い込まれそうな深い夜。

ごめんなさい。

そう、少し・・・怖かった。


うっすらとした朝もやの中で、二人の影は重なったまま。



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